リンクス高麗川 LINKS KOMAGAWA

埼玉県西部を流れる高麗川の真の再生を夢見る人たちの集い

リンクス高麗川主催 第1回高麗川を歩く会 報告

f:id:linkskomagawa:20150909144508j:plainお蔵淵へ

 

f:id:linkskomagawa:20150917175733j:plain高岡橋付近

第1回高麗川を歩く会 報告

 リンクス高麗川では、埼玉県の推進する、高麗川まるごと再生プロジェクトに付随した遊歩道計画に対する、数々の疑問を検証するため、2015年8月27日、実際に計画中の現地を歩いてみました。

 当日は、数々の川の再生に成功した実績を持つ、特定非営利活動法人グラウンドワーク三島さんから4人の専門家をお招きし、計画に対する疑問、問題点など、具体的に指摘を受けながら川を歩きました。また、飯能県土整備事務所並びに日高市担当職員の皆さんにもご参加いただき、有意義な現地調査を実施することができました。

 「何度か来たことは会ったのですが、住民の皆さんと歩くというのがやはり新しい発見もあったので、勉強になりました」


 調査終了後に、県職員の若者が言ってくれた言葉です。遊歩道計画に端を発し、企画された今回の取り組みが、若い行政マンの意識を少しでも刺激することができたのなら、将来につながるなぁ、と感じられてうれしくなりました。

 このことは、行政・法人・市民とで連携した協働の第一歩として評価できると思います。リンクス高麗川では、今後もこのような三位一体での協働を目指し、学習と行動を進めて行く方針です。

www.gwmishima.jp

 

 三島さんからは環境デザイン、土木、生き物、設計の専門家の方々がお見えになりました。簡単な自己紹介のあと、遊歩道計画についての大まかな概要と経緯を説明しました。すると次々に専門家の方々から質問が飛び、特に情報公開がない中で進められてきたという点について、問題意識を共有することができました。

 高岡橋で、行政の方々と合流。また簡単な自己紹介のあと、いよいよ河原に降り、上流に向かって歩きました。リンクス高麗川のメンバー指摘の特徴あるポイントと工事計画箇所で、三島さんとリンクスのメンバーが質問をする、という形で進んでいきました。その際、県土整備事務所が遊歩道の計画箇所を赤白ポールで示しながら進みました。

 専門家の方々にはマンツーマンで、記録係が付いたのですが、中西さんが組んだ生き物専門の先生は、工事の概要そっちのけで、生き物の追っかけに夢中?な感じで、2人の世界ができあがっているかのようでした。

 そんな形で、天神橋まで辿り着いて、総括。専門家の方々に遊歩道計画について気が付いた点、問題と感じられる点をお話いただきました。行政の方々にもそれぞれコメントをいただき、そのときに冒頭の県職員の若者の発言がありました。

 以下、その時の指摘をまとめてみました。

f:id:linkskomagawa:20150917173639j:plain天神橋上流

川を歩く会終了後の、4人の専門家による指摘(天神橋付近にて、行政職員を前にして        テープ起こし・記録:紙英三郎、中西一至

加藤 正之氏(環境デザイン/一級建築士/環境再生医(上級)・NPO法人自然環境復元協会理事長・NPO法人三島グラウンドワーク理事) 

・遊歩道を作ることはお金が掛からないが、仮設工事にお金が掛かる。3億の予算だとすれば、遊歩道には1億も掛からない。2億が土木工事である。2億の仮設工事はいったん環境を壊して、また戻すという意味のないこと。一旦壊して、また戻す時に、生態系に対して、どういう配慮をするのかが大きな課題。
・グラウンドワーク三島であれば、この事業の2m幅の道は市民普請でできる。行政からお金を頂いて、5年計画位で、ポイントポイントで議論をしながら身の丈に合ったものを作る。

速水 洋志氏(農業土木/技術士(農業土木)/環境再生医(上級)・NPO法人三島グラウンドワーク理事・NPO法人自然環境復元協会理事)

・本来こうした公共事業をやるならば、まず住民合意から始めるのが前提。3年前のスタート時に住民向けのワークショップなど開いて意見をくみ取っていくことが一番。今回の事業は昔でもやらないような公共事業の進め方。
・今の計画で、3億円を掛けてこのまま作っても誰も歩かないのでは。遊歩道は途中で途切れ、完全につながらない作りで、中途半端な作り。
・遊歩道の目的が親水ということならば、親水ポイントを、高岡橋、清流橋を降りたところに作ることで十分であり、環境も破壊せずに済む。
・ 今、国で問題になっているような新国立のように、完全白紙撤回ができるなら理想的。それができないなら、工事全体を繰り越して、せめてあと1年、今からで も地域住民の意見をくみ取って進めていくべき。そういうつもりが行政の方にあるか。このままでは環境を破壊して使われない遊歩道になり、まるごと再生では なく、住民を含めた破壊になる。

立川 周二氏(生物/農業博士/元東京農業大学教授/環境再生医(上級)・NPO法人自然環境復元協会理事)

・ 河川敷の生物相では連続した環境が重要。都市になると、緑が分断され孤立化する。そうすると生物の種類は減少する。縦に縦断に見れば、木があり草があり、 ガラ石があり、砂地になり川になる。環境勾配的に見れば、湿度の傾きがある。それぞれに植物も虫もそれに合わせてすみ分けている。遊歩道がそれを分断して しまう。乾燥化が進み、強いものしか残らない世界になる。強いものとは何かというと、例えば帰化植物。在来種を駆逐し帰化植物が繁茂する環境になる。
・環境影響評価をしていないとのことで、希少種がどれほどあるかは分からないが、あってもおかしくない環境。そういうものが出てくると、工事も注意してやらざるを得ないだろう。アセスは必要なんでしょうけどねぇ。

吉田 勇人氏(農業土木/一級土木施工管理技士

・歩けるところにわざわざ舗装してまで遊歩道を作る必要はないのではないか。そこに至るためのアプローチとして作るだけで、開けている所はそのまま残して、現況を生かすことが良いのではないか。
・護岸については工事が下流にどういう影響があるか、どこが堆積し、どこが潜掘されていくか、河道がどう変わっていくか、といったことを継続して調査していって欲しい。

f:id:linkskomagawa:20150917162138j:plainお蔵淵

川歩き最中の、各ポイントでのコメント

 以下は川歩き最中に4人の専門家の皆さんが発した発言の一部をメンバーが記録したものです。
 

提示の地図著作権は、飯能県土整備事務所・日高市産業振興課・日高市部会に帰属します。

飯能県土整備事務所 日高市産業振興課

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f:id:linkskomagawa:20150917163957j:plain清流橋下流

加藤 正之氏(環境デザイン/一級建築士/環境再生医(上級)・NPO法人自然環境復元協会理事長・NPO法人三島グラウンドワーク理事) 

 報告 岩木隆夫
断片的ではありますが、言葉のやりとりとご様子をメモから起こしてみます。
加藤先生;水面より3~4m、上なのね。踏み分け道は残すのね。県土整備事務所;イエス。
植生の整備はやるのですか? 県土整備事務所;やらない 倒れて邪魔になっている竹を除く程度。
石積みなの? 県土整備事務所;割り石を使う コンクリート製ではない。
吉田先生;ハイウォーターの計画は? 県土整備事務所;断面的には足りているので、計画には入っていない(専門的な話なので、正しい聞き取りなのか自信ありません)
・アプローチ路予定地で、県土整備事務所、遊歩道の通過予定箇所/高さ(20~30cm 石積みが出る)を示す。
・大ケヤキ株の前で、県土整備事務所、遊歩道通過箇所を示す。ほぼフラット、ケヤキの根は残す。
外川さん;ここは地元のたくさんの人にとって想い出の多い場所
加藤先生;ハンディキャプトのことも配慮することが必要では?
県土整備事務所;介助の人に持ち上げて階段を下りてもらえれば、来れるはず。
・健常者なら、石の道を歩く良さを活かすことも考えられる。野趣にあふれる道という手もある。考えどころ。
・大ケヤキ株の前で、新さんが嶋田さんの写真集を手に説明、湧水の説明。
加藤先生、写真集を乗り出して見直し、写真集(と、もしかすると背景の現況も一緒に)を撮影。大ケヤキ株を様々な角度から撮影 上流、下流に向けた遠景も撮影。
加藤先生;路面がコンクリートべたというのは自然の中でどうかと思う。土や石を混ぜた舗装がよいのでは。後に、清流橋の、砂利が浮き出ている石出しの舗装を示して、「こんな舗装ならまだまし」
お藏淵にて、加藤先生、岩を撮影.丁度、良い具合に陽がさしたお藏淵の風景を、感嘆の声とともに撮影。

立川 周二氏(生物/農業博士/元東京農業大学教授/環境再生医(上級)・NPO法人自然環境復元協会理事)

 報告 中西一至
 川を歩く前から「生き物の専門家」は単独行動をするんじゃないか、という多くの方が危惧と言うより期待していた通り、立川周二先生は行政の方の工事計画の説明そっちのけで、河岸の繁みや川の中にずんずん入っていきます。
 その立川先生に中西はつかせてもらいました。
 高岡橋から川に降りていき、川の中を覗いているとオレンジ色の金魚が。在来種外来種からよく活動している多摩川の話に。「今やタマゾンと呼ばれています」と。
「 これは何ですか?」と私が切り出すと、シャキリソバ、ミゾソバ、ハグロトンボ、オンブバッタ、…。ところどころ写真を撮りながら慎重に答えて下さいます。
慎 重にというのは他の場面でもありました。中洲や河岸に草が繁ってきていることに関して賛否分かれていること。在来稀少種と生物層の厚さ、多様性のことと関 係しているのかなと。生き物調査が必要だと思いました。(先生が関わっているところでは年に5回、陸上の生き物、植物、水中のガサガサ等をやっているそう です。)
 エコトーン、高水敷という言葉が出てきました。それぞれ充分理解できていないのですが、エコトーンは、日陰から日向に、また乾から湿に 徐々に変わっていく様や連続性と深く関係があり、都会の川と違いここは連続した、繋がった自然環境があり、生き物にとって貴重な場所になっている。また川 を横断的に川岸から見てみると、木陰の湿った日陰→川原の日向→草原→川といふうにそれぞれ違った環境があることがわかります。一律じゃないのが生き物に とっては大事なようです。
今回の短い川歩きで稀少種がどうこう言えないが、例えば今回見られたコセアカアメンボウの棲みかである何気ない溜まり水 があるところ、流れが強いところでは生きられない湧水があるところは、人にとっては潰してしまっても何てことないかもしれないが、多様性ということでは貴 重。リンクス高麗川としてポイントを確認し押さえておかないといけないなと思いました。
 また手が入ることで何らかの撹乱が起こると、例えば強いオオブタクサのようなものが勢力を伸ばし在来種を駆逐してしまう可能性も。「事前調査はしない?」。
 虫に関して先生が紹介して下さった本があります。元埼玉大学の林正美先生の「埼玉生物史」です。埼玉の昆虫が詳しく載っているとのこと。中を早く見てみないと。ご存知の方ご一報を。
生き物がたくさんいて、ここは貴重なんだよと言っても、関心がない「アアソウ、ソレガ」という人には、自然の恵みを経済的に試算した本もありますよと。
 後にネットで「立川周二」で検索すると、著作やフィールドワークのことで次々と出てきて、こんな人に密着して直接話をうかがうことができたんだと、じわっと嬉しくなりました。
日本で初めてのトラスト協会「世田谷トラスト」、そして「野川の会」と深い関わりのある方です。

 

f:id:linkskomagawa:20150917174227j:plain清流橋下

速水 洋志氏(農業土木/技術士(農業土木)/環境再生医(上級)・NPO法人三島グラウンドワーク理事・NPO法人自然環境復元協会理事)

 報告 遠藤昭一
 食事を終えた場所で速水先生が、白紙撤回が無理なら工事を一年間伸ばしてその間にワークショップや観察会などを開き住民と行政側が一緒に成長していくことが必要と話していました。
 会話の合間合間に本当にもったいないことだと何度も言いました。住民合意が前提としてスタートすべきことなのに行政側の都合が良いように計画された進めかた。
 計画が持ち上がった始めから住民と一緒にワークショップなどを重ねて計画していたら本当に良いものを残せるのにと。
 いまある河原を生かして草を払い小径を整備するだけで充分に歩ける道になる。
 現状を生かして小径を整備。
 5年計画くらいで住民参加で市民の手でやれば重機も予算もかからずに良いものを残せるし後々の管理も自分たちで出来る。
 つながっていない遊歩道など歩く人がいないのではないか?
 水辺に親しむコンセプトならば橋の周辺ごとに河川公園として整備するだけで充分。
 「多自然型河川」が残るエリアとして手を付けないところを残すこと。
 今後の活動については定点観測や定期的な観察会などをすぐにでもはじめて工事の後にどう変化したかを比べられるデータ集めをスタートする時期。
 活動実績を作りこちらの意見をしっかりと取り入れてもらえるように準備しておく。

吉田 勇人氏(農業土木/一級土木施工管理技士) 

 報告 紙英三郎
 僕が担当についた設計の専門家の方は、今回の専門家の方々の中では一番お若い方でしたが、川をこういじるとこうなるでしょう、ということを分かりやすく説明してくれました。
 たとえば、川筋を変える工事を行う清流橋~お蔵淵の区間において、左岸側の土砂をいったん右岸側に寄せて川筋を変えて工事を行い、工事終了後その土砂をまた 左岸側に戻した場合、大水がでれば、間違いなくその左岸側の土砂は崩れて、下流にまた新たな堆積を生むでしょう、すると川はどんどん狭く、河原との高低差 は深くなっていくでしょう、とか、

 今回の遊歩道ができることによって、大水で人家に被害が出やすくなるようなことはないでしょうか?ということに ついて、上流から下流に高い方から低い方へ流れていく中で、途中に人工物ができたからといって、水面が上流よりも上がるということはなく、河床部が洗掘さ れていくでしょう、弱いところ弱いところを削っていくので、場合によっては対岸の護岸が必要になる状態になることもありえます、とか、

 清流橋が作り変えられて、川の流れが左岸から右岸側に変わったんだという石井さんのお話を、橋脚のこの部分に水が当たることでそうなりますね、と説明してくださったりしました。

 

f:id:linkskomagawa:20150917174657j:plain清流橋よりお蔵淵方面 竹藪に覆われた地点は、何らかの治水が急務

 

まとめ

 高麗川まるごと再生プロジェクトは、当初、巾着田周辺整備のみが計画されていました。

 それが、いつの間にか遊歩道計画にすり替わり、天神橋から清流橋を挟み、お蔵淵までと、

お蔵淵下流から高岡橋まで、そして獅子岩橋から新井橋、更には久保下橋から坂戸境までと、

当初の予定を大幅に超えた総額3億円の大事業へと変貌していたのです。

 しかも、その経緯が一部の関係者を除き、地域住民へ一切知らされることなく、進められようとしていることに、大きな間違いがあると感じます。

 

 リンクス高麗川では、この行政とのすれ違いを、可能な限り縮めて行き、地域に暮らす人々の誰もが納得できる形で収められればと願っているのです。

 私たちは、あくまで遊歩道計画の進め方に対して、憤りを感じている訳で、どこかで掛け違ってしまったボタンを掛け直すように、対話を続けながら、行政と市民との共通の理解を探し求めているのです。

 リンクス高麗川にとって、今回の遊歩道計画が終着点ではありません。むしろ、ここを出発点とし、記事の冒頭でも述べたように、行政、法人、市民が三位一体となったチームワークを組んで行くことで、より良い地域作りができるのではないかと思っています。そうすることで、誰もが喜びに充ちた、希望に輝ける未来の日高市が築けるのではないでしょうか。きっとそうなると信じています。

 

 「真の高麗川の再生」とは、いつの間にかすれ違ってしまった、行政と市民の関係を、今一度、紐解き、結び直し、再構築して行くことに他ならないでしょう。それはまた、自然と人に置き換えても、同じ事が言えるのです。