リンクス高麗川 LINKS KOMAGAWA

埼玉県西部を流れる高麗川の真の再生を夢見る人たちの集い

高麗川まるごと再生プロジェクト・遊歩道計画における、日高市への素朴な疑問 お蔵淵下流・右岸の考察

日高市への疑問 総論

 高麗川まるごと再生プロジェクトと聞こえは良いが、調べれば調べるほど、疑問と不信感ばかりが見えてくる遊歩道計画。2015年9月に開かれた日高市議会定例会での質疑応答によると、計画に当たっては、自然景観や水生生物への影響が少ない場所を選んだという。しかし、市職員の説明では、環境アセスメントの対象では無いから、改めて環境調査はしなかったと聞く。ではいったい、何を根拠に影響が少ない場所を判断したのだろうか?

 以下では、数々の問題を抱える高麗川遊歩道計画の中から、お蔵淵(栗坪)〜高岡橋の区間に特化した疑問点を投げかけ、遊歩道計画そのものの在り方を考えてみた。

高麗川の大ケヤキについての疑問

・巨樹の概念は? 日高市に巨樹と呼ばれる木は何本あるの?

日高市の巨樹に対する見識・保護対策は如何に?

ケヤキは埼玉の木として指定されているが、埼玉県内にケヤキの巨樹は何本あるの?

・今まで日高市ケヤキの巨樹に対し保護対策の実績はある?
高萩駅周辺にはかつて素晴らしいケヤキの巨樹があった)

高麗川(栗坪)のケヤキは巨樹と認識するが、計画予定だと、その巨樹の根元まで埋めてしまうというが、本当?

・その結果、市内屈指の貴重な巨樹であるケヤキが枯れる可能性は?

 

f:id:linkskomagawa:20150923234204j:plain高麗川の大ケヤキ周辺・湧水が溜まり水となっている。この水辺は嶋田忠さんの写真集「カワセミ 清流に翔ぶ」の舞台ともなった貴重なエリアだが、計画では水辺は全て埋めてしまうということだ。

 

f:id:linkskomagawa:20150924004320j:plain高麗川の大ケヤキ・根元が宙に浮くように大きく張り出す。増水時は根の下部まで水にさらされることを物語っている

カワセミの聖地を消滅させることに対する疑問

・高岡橋上流はカワセミの生息地として、嶋田忠氏の写真集、絵本として、

カワセミ 清流に翔ぶ」
カワセミ 青い鳥見つけた」


・また、高橋健氏の児童書、
「ふるさとの川の番人 カワセミ

 に克明に描かれている。

カワセミ―清流に翔ぶ

カワセミ―清流に翔ぶ

 
カワセミ―青い鳥見つけた (日本の野鳥)

カワセミ―青い鳥見つけた (日本の野鳥)

 
ふるさとの川の番人カワセミ (1979年) (自然観察ものがたり〈1〉)

ふるさとの川の番人カワセミ (1979年) (自然観察ものがたり〈1〉)

 


・三誌とも高麗川の自然環境を謳った基本的な書籍と思うが、今回の計画で参考にした?。

・三誌とも高麗川お蔵淵周辺を高麗川の中でも最も自然環境の豊かな場所と判断しているが、その場を遊歩道で埋め尽くし、消滅させる正当的な論拠はあるの?

・お蔵淵・ケヤキ周辺はカワセミの聖地としての認識している?

日高町の鳥にカワセミが指定されたのが昭和55年、上記写真集・児童書の2冊が昭和54年に出版されている。故にこれらの書籍が日高町カワセミに注目する根拠ともなっていると承知する。それらの著者が高麗川で最も注目した場所がケヤキ周辺である。言わばカワセミの聖地として、将来まで環境維持すべきと思うが、如何?

太陽賞平凡社のグラフ誌「太陽」主催の由緒ある写真賞として、写真界では芥川賞に匹敵するものであると認知されていた。(現在は中止されている)嶋田忠氏が「カワセミ 清流に翔ぶ」で太陽賞を受賞されたのをご存じだろうか?

・言わば氏の作品は文化的価値も高いという証拠である。その写真集は全て高麗川で撮影され、その多くがケヤキ周辺で撮られたものである。常識的な判断として、太陽賞受賞の地として、将来にわたって称える場所と思うのだが?

・ちなみに日高市内のカワセミは何羽生息しているの?なぜ調査しないの?なぜ、お蔵淵で観察しないの?。カワセミの基本的生態を知らないままに繁殖地を消滅させる正当性は何?

 

湧水ポイントについての疑問


高麗川日高市内に何カ所湧水があるの? その中で現在も枯れていない場所は何処?

ケヤキの脇を流れる湧水は知っていた?湧水ポイントは希少性がある?

・推測だが、湧水ポイントには絶滅危惧種である、トウキョウサンショウウオアカハライモリの生息が見込まれる。いないことを証明するのは難しいが、なぜ調査の必要性を感じないのか?

・湧水周辺は本流には棲めない生物の生息地であるが、その貴重性は?

・湧水から本流への合流地帯は生物にとって貴重と思われるが、どう思う?

ヘイケボタルの幼虫が本流にたくさん目撃されていたが、ホタルと湧水との関係性は?

・遊歩道計画では、ケヤキ周辺の湧水ポイントが埋められるという。その正当性はあるの?

 

f:id:linkskomagawa:20150923234914j:plainケヤキに向かって左側の湧水から流れ出る水は、本流より冷たい。この辺りには貴重な水棲生物が生息している可能性も否定できない。計画では、この水の見える場所を全て埋めてしまうとのことだが。

まとめ

 以上、思いつくままに疑問を投げかけてみた。お蔵淵下流(高岡橋上流)右岸は、高麗川でも一部に限られてきた、自然河岸が続いてる。
 
 先端にあるお蔵岩は、岩の多い高麗川の中でも巨大なもので、樹木に覆われた全貌を上流からみると、一つの島のようにも見え、今にも宙に浮ぶが如くそそり立つ。美しくも均整のとれた岩山そのものが高麗川屈指の聖地と思われ、頂きに厳島神社が祀られているのも頷ける。暴れ川として蛇行を繰り返す高麗川の水流を真正面から受け止める様に、いにしえの人々は神の威光を感じたのではないだろうか。

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 そのお蔵岩から続く右岸には、高麗川屈指の巨木、大ケヤキが岩にへばりつくようにそびえ立っている。数年前、幹の中程から無残にも切り落とされてしまった(この件に関しましては、残念無念としか言いようがない)ものの、樹勢は若々しく、巨樹としての存在感は、自生している場所と共に、印象深いものと映る。今は徒長枝に覆われているが、 まあ百年も経ってみれば、新たな枝が幹となり、日高市を代表する巨樹となることだろう。お蔵岩がご神体なれば、大ケヤキはまさにご神木に相応しい巨樹と して、威光灼かに輝くものと確信している。
 
 今回の計画では、高岡橋からお蔵淵に向かって、大ケヤキの根元を通って遊歩道が整備されるという。しかも、お蔵淵付近は歩道整備が難しいため、行き止まりとなる。高麗川は鉄砲水の記録があり、仮にお蔵淵付近で鉄砲水に遭遇したなら、逃げ遅れてしまう可能性もある。そんな場所に行き止まりの、しかも舗装された遊歩道が、本当に必要なのだろうか。
 
 また、遊歩道で固められた河岸付近は乾燥化が進み、貴重な湧水が枯れてしまう可能性も考えられる。更に、乾燥化は大ケヤキへのダメージも考えられ、場合によってはケヤキそのものを枯らしてしまうことにもなるかも知れない。あくまで、推測による可能性の話だが、結果的に枯れてしまってからでは遅い。それ故に、慎重な環境調査が求められるのは、至極当然の話だと思うが、行政の方々はその必要は無いの一点張りだ。
 
 大ケヤキの両脇からは湧水が流れ出てる。特に向かって左側のポイントは流れの勢いもあり、大ケヤキの根元に水を供給している様子が見て取れる。ケヤキの根元は川原となっているが、湧水のお陰で溜まり水が残り、水生生物の貴重な生活場所となっている。遊歩道はその溜まり水を埋め、周囲の景観を一変させてしまう。また、湧水周辺には、トウキョウサンショウウオアカハライモリなど貴重な両生類の生息が見込まれる。このことは調査してみなければ解らないが、その機会すら作ろうとしない、今回の遊歩道計画の進め方は大いに疑問が残る。
 
 かつて、高麗川の流れは大ケヤキの根元、つまり右岸に沿っていた。嶋田忠さんがカワセミの撮影に夢中になっていた頃の事。そのころ、大ケヤキ付近ではカワセミの繁殖も目撃(高橋健さん著・ふるさとの川の番人カワセミ)され、大小の岩に囲まれた渓流(そういうイメージがぴったり)は恰好のカワセミ撮影ポイントとして、嶋田さんの写真集のメインを飾っている。日高市(その頃は日高町)では、その写真集を切っ掛けに、カワセミを町の鳥に指定。その後現在に至るまで、カワセミ日高市のシンボルともなっている。言わば、大ケヤキ周辺はカワセミの一大ロケ地であり、シンボリックな場所として保存されるべき場所であり、そのカワセミの聖地とも言える場所を、埋めることで消滅させようとしている。果たして日高市の職員は、その事実関係を理解した上で、このような遊歩道の計画を立てているのだろうか?
 
 お蔵淵から高岡橋までの高麗川右岸は、高麗川の中でも希有な存在と言え、とても貴重な場所であるという観点から、遊歩道計画の見直しを求める。仮にこのまま強引に計画を推し進めたなら、日高市にとって歴史的、自然的に重要な遺産を失うことになるだろう。
 
                       文・写真 新逹也 リンクス高麗川代表 
 

f:id:linkskomagawa:20150924215348j:plain日高市役所一階受付脇の階段には、嶋田忠さんが寄贈したカワセミの写真が5点展示されている。嶋田さんは写真集に掲載した写真をまとめて日高市に寄贈しているのだが、その中から日高市が市民に見えるよう選んだ5点が、これらの写真ということになる。したがって、日高市ではこれらの写真を、嶋田さんの代表作と捉えたものと判断する。さすが、日高市セレクターは目が高い。何と5点の内3点も、お蔵淵下流・大ケヤキの根元付近で撮影された写真を選んでいるのだから。展示写真は階段下から「靜寂」写真集掲載P78・ラストカット、「高麗川の朝」P20、「求愛給餌」P36、「オイカワを捕らえる」表紙カット、「カワセミとヤマセミ」P69となっている。特に、「高麗川の朝」(写真右端のパネル)は1970年代の大ケヤキ周辺の岩の形状、川の流れ、遠景のお蔵淵周辺の様子などが写され、今となっては資料としてもとても貴重な写真だ。また、「カワセミとヤマセミ」も別な機会に同じ場所で撮影されたもので、カワセミとヤマセミが同時に飛び立つ瞬間が、大ケヤキ周辺の環境と共に克明に写されている。いかなる理由でこれらの写真が階段付近の展示用に選ばれたのかは判らないが、少なくとも、お蔵淵周辺の川容を素晴らしいものと感じたからこその選択だと推測する。以上のことから、日高市職員の皆さんも、お蔵淵・大ケヤキ周辺の重要性は夙に理解しているのではなかろうか。ただ、今回の遊歩道計画と、お蔵淵・大ケヤキカワセミとの関係性が結びついていなかっただけなのだと思いたい。

 

f:id:linkskomagawa:20150924003417j:plain高麗川の大ケヤキ・主幹に沿って数本の幹がそびえる。数年前、上部が伐採され、無残な姿になってしまったが、その特異な姿は観る者を圧倒する。

 

f:id:linkskomagawa:20150921132203j:plain高麗川の大ケヤキ・2009年の撮影。主幹が伐採される前の姿は、5本の幹が天を貫くように伸び、四方に広がったケヤキ特有の枝振りは、遠目からでも目につき、巨樹としての気品と風格を持ち合わせた素晴らしい木だった。理由はともあれ、このような人知を遙かに超えた巨樹の主幹を安易に伐採させてしまった、日高市の自然遺産に対する認識の甘さは認めざるを得ないだろう。

f:id:linkskomagawa:20150924011958j:plain与野の大ケヤキ・樹齢300年程度と言われていたが、この撮影翌年の2010年、倒壊の危険があるということで、残念ながら伐採されてしまった。交差点の中央に残された老木の最期は痛ましいものだった。根はコンクリートで圧迫され続け、脇を大型車が走るという劣悪な環境に耐えて来たのだった。高麗川の大ケヤキは、この木よりも目通りは太いと感じる。樹齢は解らないが、樹勢は遙かに元気だ。木も置かれた環境で大きく差が出る。高麗川の大ケヤキ日高市にとって貴重な自然遺産であり、財産であると認識を改めるべきだろう。根元をコンクリートで固めた遊歩道など論外ではないだろうか。与野の大ケヤキの末路が良い例である。

f:id:linkskomagawa:20150924014737j:plain2010年、与野の大ケヤキのあったスクランブル交差点。写真中央の植え込みの中に大ケヤキは生えていた。高麗川の大ケヤキが、このような憂き目に遭わぬよう祈るばかりだ。